インド哲学分野で何を学べるか
私達の分野では、インド・チベットの哲学文献をはじめとする古典の読解を通じて「人間とは何か」、「人間は何のために生きるのか」、「人間はいかにして世界を認識できるのか」といった人類に普遍的な問題を考察します。哲学・宗教思想だけでなく、インド・チベットの言語・文学・美学なども学ぶことができます。
学部で学べること
二年次
二年次ではインド哲学・仏教学の大要を概説(インド哲学概説・仏教学概説)で学び、インドの古典語サンスクリットの初級文法を基礎演習で学びます。サンスクリット初級文法の教材として私達が使っているのはGeorge L. HartのA Rapid Sanskrit Methodです。毎週1課ずつ進めていき、一年かけて全30課を終わらせます。
三年次・四年次
三年次・四年次では本格的にインド哲学・仏教学を学びます。演習では原典読解法の基礎を習得するため、詩聖カーリダーサの叙事詩『クマーラ神の誕生』を註釈文献に基づいて読解します。
基礎文献演習・文献演習では『バガヴァッド・ギーター』や『マヌ法典』など、インド学の基本文献を通じてインド思想文化の諸相を学び、シャーンティデーヴァの『入菩提行論』など、仏教学の基本文献を通じて仏教思想の諸相を学びます。インド・チベット仏教の理解に欠かせない古典チベット語文法の習得のため、三年次前期でチベット語入門という授業も受講します。さらに、学部・大学院共通科目の仏教思想文献演習では、民衆語の一種であるパーリ語で書かれた初期仏典を学ぶことができます。
三年次から学部・大学院共通科目の特別演習(通称「論文ゼミ」)に参加します。この特別演習にはインド哲学分野の全教員・全学生に加えて、西洋哲学分野の教員・学生も参加します。学生が各自の研究テーマについて発表し、その内容について全員で討議します。
三年次の後期になると、各自の卒業論文の課題を設定し、それに即した原典の読解を開始します。文献講読は原則として授業時間外の個人指導で行ないますが、他の学生も希望すればそこに参加することができます。個別の論文指導の成果と、特別演習での発表に基づいて卒業論文を完成させます。
博士課程前期
この分野の博士課程前期に入学する学生は、学部でインド哲学・仏教学を学んだ人だけではありません。他大学・他学部出身の学生も多く入学してきます。サンスクリット未修者は学部の基礎演習に参加すると共に、独自に学習を進め、できるだけ早期に初級文法を習得するのが望ましいでしょう。
博士課程前期に入学したら、ただちに研究テーマを決めて修士論文の準備に着手します。授業として開講されている科目が、学生の修士論文のための文献講読を兼ねることもあります。自身の研究対象とする文献が授業で扱われない場合は、授業時間外の個人指導で読み進めることになります。他の学生も希望すればそこに参加することができます。博士課程前期の学生の中には、サンスクリット文献やインド仏教のチベット語訳を研究する人だけでなく、チベット撰述文献を専門とする人や、パーリ語文献を専門とする人もいます。
大学院の学生には、インド哲学・仏教学に関する幅広い知識が求められます。開講されている大学院の演習はもちろんのこと、学部の演習や、授業外に実施される他学生の論文指導などにも積極的に参加し、「耳学」を通じて最先端の学問に触れ続けることが必要です。その一方で、自身の研究を深めるために、各自の研究分野に関する先行研究を参照しなければなりません。特に英語・ドイツ語・フランス語などの外国語で書かれた論文を読むことは極めて重要なことです。授業や論文指導の時間に、外国語論文の読解法を教授することはありませんから、こうした作業は個人の自主的な努力に委ねられています。
学部・大学院共通科目の総合演習(通称「論文ゼミ」)には、インド哲学分野の全教員・全学生に加えて、西洋哲学分野の教員・学生も参加します。各自の研究テーマについて発表し、その内容について全員で討議します。個別の論文指導の成果と、総合演習での発表に基づいて修士論文を完成させます。
博士課程後期
博士課程後期に進学した学生は、個別の論文指導と、各自で行なう先行研究への調査などの成果に基づいて、学術大会での口頭発表や学術誌への論文投稿を行ないます。学術誌に投稿した論文の蓄積が最終的に博士論文として結実するはずです。
一つの学術論文を書き上げるのは決して簡単なことではないのだと多くの皆さんが気づくことでしょう。論文を完成させるためには、正確な文献読解に加え、先行研究に対する丹念な調査と、徹底した論理的思考が不可欠だからです。論理的思考を育むために、英語での学会発表や、英語論文執筆に挑戦するのはとても良いことです。インド哲学分野では、博士課程後期の学生による国内外の学術大会での英語発表や、英語論文投稿は珍しいことではありません。
博士課程後期の学生は比較論理学プロジェクト研究センターの定例研究会(通称「論文ゼミ」)に参加します。これは学部の特別演習および大学院の総合演習と共通であり、インド哲学分野の全教員・全学生に加えて、西洋哲学分野の教員・学生も参加します。各自の研究テーマについて発表し、その内容について全員で討議します。学術大会発表の予行演習をこの場で行なうこともできます。
私達の分野の特色を一つ挙げるとすれば、それは国際性です。私達は積極的に世界各国の研究者との交流を推進して、世界の第一線の研究者と直に触れる機会を頻繁に設けています。さらに、中国・チベット・スリランカなどアジア圏から多くの留学生を迎える一方で、日本人学生の海外留学の便宜を可能な限り図っています。これまでに何人かの学生が公的留学制度によってインドやドイツなどへの留学を果たしました。
博士学位を取得した後は、日本学術振興会特別研究員などへの応募を行ない、研究者への道を目指すことになります。これまでに日本学術振興会特別研究員(PD・SPD)・外国人特別研究員や、仏教伝道協会の奨学生などに採用された修了生が数多くいます。